【経済の健康診断】米国の物価と雇用の「今」を徹底解剖
FRBが最も恐れる2つの数字...それは「物価」と「雇用」。この最新の健康診断書を読み解けば、米国経済の未来、ひいてはあなたの投資戦略のヒントが見えてきます。現在の米国は「インフレの熱は下がりつつあるが、まだ微熱が続く筋肉質な状態」と言えるかもしれません。
なぜ「物価」と「雇用」が最重要なのか?
FRB(米中央銀行)の使命は「物価の安定」と「雇用の最大化」。これは、経済という巨大な船の速度と安定性を同時に保つような、非常に難しい舵取りを意味します。物価が高すぎれば国民の生活が苦しくなり、失業率が高すぎれば経済全体が活力を失います。私たちがニュースで目にするFRBの決定はすべて、この2つのバランスを取るためのものなのです。
グラフで読み解く経済の歴史と現在
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歴史から学ぶパターン(長期グラフ)
長期グラフを見ると、歴史的に失業率(紫の線)が急上昇する「景気後退期」(2001年のITバブル崩壊、2008年のリーマンショックなど)には、物価指標も大きく落ち込んでいることが分かります。FRBは常にこの2つの指標を天秤にかけ、経済の安定を図ってきました。
コロナ禍以降の異変(短期グラフ)
一方、コロナショック後の世界は様相が異なります。2022年に物価が歴史的な高水準に達した後も、失業率は低いままです。これは「景気は強いが、物価も高い」という、FRBにとって最も難しい局面であることを示しています。これが「歴史的な高金利政策」の理由です。
現在地の分析(2025年8月時点)
グラフの右端、2025年7月時点のデータを見ると、各物価指標(PCE: 4.71%, コアPPI: 2.82%, コアCPI: 3.05%)は長期的なトレンドとしてはピーク時から落ち着きを見せています。しかし、直近の報道では同月のPPI(生産者物価指数)が市場予想を大幅に上回り、特にサービス価格の急騰を背景に短期的なインフレ再燃懸念が強まっています。
このグラフのコアPPIと報道で注目される数値に乖離が見られるのは、指標の定義が異なるためです。当グラフの指標は、短期的な価格変動が大きい「商業向けサービス」を除外して物価の基調的なトレンドを示しているのに対し、報道される一般的なコア指数はこれを含むため、足元の急な価格変動をダイレクトに反映します。
このデータの応用的な見方
では、このデータを見て私たちはどう考えれば良いのでしょうか。一つのヒントは「乖離(かいり)」です。例えば、企業側の物価(コアPPI)が再び上昇傾向を見せ始めた場合、それは数ヶ月後の消費者物価(コアCPI)に波及する「予兆」かもしれません。また、PCEとCPIの差が拡大している時は、FRBの見ている物価と私たちの生活実感がズレていることを示唆します。この「差」に注目することで、市場の次の動きを先読みする手助けになります。